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任意後見契約との違い

※最初に申し上げておきます。
恥ずかしながら私自身は、現時点では任意後見契約に携わったり任意後見人になったりといった経験がありませんので、ここで書くのはあくまで経験に基づくものではなく机上の勉強の結果であり、実務とは相違がある場合があることをご了承ください。

任意後見は成年後見制度の一態様ですが、裁判所が後見人を誰にするのか一方的に決めてしまうものではなく、契約で本人が自分の望む人に後見人になってもらう制度です。
本人が、判断能力が落ちないうちに契約で決めておくなど、民事信託とも類似点がありますが、あくまで成年後見の一態様なので、違う点もかなりあります。
「成年後見との違い」のページと同じような書き方になりますが、ここでは任意後見契約と民事信託を比べてみたいと思います。
どのような状況やニーズのときに、どちらの制度を活用すべきかの参考になればと思います。
なお、任意後見を青字民事信託は赤字で書いてみたいと思います。


1 そもそも、どんな制度か
任意後見契約は、まだ本人の判断能力が十分にある時期に、本人が自ら後見人を選び、本人の判断能力が不十分になった場合に、自分の生活、療養看護、財産の管理に関する全部又は一部について代理権を付与(成年後見のような同意権や取消権はない)する契約。
民事信託は、ある目的のために、特定の財産を特定の人物に託し、託された人物は託したときの約束事(信託契約等)に従って管理・運用・処分をする制度

2 制度を利用するのに判断能力は必要か
任意後見は契約時に判断能力が低下していると利用できない(逆に効力発生時は判断能力が不十分になっていることが必要。※不十分とは成年後見の態様でいうところの「補助」相当といわれている。)。
民事信託は判断能力が低下していると利用できない。ただし、信託完了後に委託者の判断能力が低下しても影響は受けない。

3 制度利用の方法
公正証書による契約書の作成が必要(要式行為なので口頭や私文書での契約書では締結できない)。
原則として信託の契約方法に制限はない。ただし、公正証書での契約書作成が推奨されるし、不動産等登記登録が必要な財産の場合は信託した旨の登記登録をする必要がある。

4 効力発生時
任意後見は、契約時には効力は発生せず、本人の判断能力が不十分となり申し立てに基づいて家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときに効力が発生する。※申立てには鑑定は不要だが、本人の同意(不十分でも判断能力が残っている場合)と診断書は必要。
民事信託は、信託行為(信託契約)時に直ちに効力発生する。

5 任意後見人や受託者が管理する財産の範囲
任意後見は原則として全財産(生活、療養看護、財産管理の事務の範囲を限定することは可能)
民事信託は、信託契約で表示する特定の財産(「全財産」と表示する信託はできない)。

6 誰が任意後見受任者(受託者)となるのか
任意後見契約は委任者が信頼する人物を任意後見受任者とすることができる。
民事信託では委託者が信頼する人物を受託者とすることができる。

7 監督機関
効力発生後は、必ず家庭裁判所の選任した任意後見監督人の監督を受ける。その監督人が家庭裁判所から監督を受けている。
信託契約等で信託監督人や受益者代理人を置くことはできるが、任意であり、置くとしても家庭裁判所からの監督は受けない。

8 代理権の範囲
任意後見契約で定める預貯金の管理、介護契約、医療契約の締結、訴訟行為の委任、財産の処分などの法律行為の代理権。身体介護などの事実行為は不可。
民事信託は「特定の財産を託している」に過ぎないので、信託財産に対する信託契約に基づく範囲でしか権限を持たない。

9 財産管理の指針
裁判所の監督を受けているため、責任という観点から見れば成年後見人と指針はさほど変わらないが、代理権の範囲はそもそも本人の意思に基づき契約で定めているため、例えば代理権の範囲に居住用不動産の処分が含まれているような内容ならば、裁判所の許可が得なくても処分が可能となる。
 ただし、私見だが任意後見を含む後見制度すべてが「本人の生活の支援」のための制度なので、例えば財産の処分などの行為の目的が本人の生活や療養看護ではなく本人以外の親族等のためになされる場合には善管注意義務違反となるのではないだろうか。

民事信託は、信託の目的や管理の方法など信託契約で決めることができるので、受益者を第三者にするなど財産管理の指針も自由に決めることができる。もちろん、信託契約に反する管理をすることはできない。

10 終了
任意後見は、効力発生(任意後見監督人選任)前は、公正証書で契約解除が可能。
 効力発生後も解除は可能だが家庭裁判所の許可が必要。
 効力発生後に、任意後見人の不行跡等の理由で家庭裁判所が解任することが可能だが、解任された場合は任意後見人は本人の信頼に基づいて就任しており、別人を後任者にすることはあり得ないので、任意後見自体が終了する。

信託終了の事由も信託契約で決めることができる。死亡以外の事由で終了させることもできるし、死亡で終了させることもできる。また、信託法の認める範囲で死亡後も受益権を引き継ぐ形で信託を継続させることもできる。


民事信託の方はあまり変わりませんが、こんな感じだと思います。
任意後見は、任意と言ってもやはり後見ですので、「包括的」や「監督」というのはポイントになると思います。
後見は後見でも、自分の好きな人に任せられるし代理権の範囲もある程度自由に決めて良い反面、裁判所が信頼して選任したわけじゃないので、同意権や取消権など何もかもとはいかないというイメージでしょうか。
ただし、任意後見は直ちに効力が発生しないので、第三者が受任者となった場合は、効力発生のタイミングを見定めるためにも定期的に様子を見に行く契約(いわゆる「見守り契約」)や、一応契約の段階ではお元気なはずですので、効力発生までの任意代理の委任契約や、遺言、死語事務の委任契約なども併せて行うこともあるようです。

民事信託との兼ね合いに戻りますが、契約のタイミングとしてはどちらも判断能力があることは大前提となりますので、自分の生活のための包括的な事務を代理して欲しいのか、個々の財産の資産管理や資産承継の道筋をつけたいのかなど目的という点で使い分けることになるのかなと思いますが、その両方を行いたいのであれば両方を活用することも可能だろうと思います。
成年後見と民事信託では、判断能力があるかないかの問題で原則として同じタイミングではどちらかの制度しか使う余地がないはずですので、その点は大きな違いかなと思います。



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