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成年後見との違い

最近、新聞などで成年後見制度の問題点や専門職後見人の不祥事などがニュースになることが多く、「成年後見を使いたくないから○○したい」というお話や相談を受ける機会多い気がします。
そこで、じゃあ、成年後見と民事信託(家族信託)の違いについて、少し考えてみたいと思います。
比較の表かなんかで説明できれば良いのですが、そもそもまったく違う制度ですから、そういう比べ方は困難だと思うので、箇条書きというか文章で比べてみたいと思います。
なお、成年後見には本人の判断能力の程度によって「後見」「保佐」「補助」の3累計がありますが、保佐や補助の場合には本人の判断能力が不完全ながらも残っているため、その段階でよほどの事情が無い限り申立ての煩雑さや裁判所の監督を受けることを良しとしないご本人やご家族の意向が働くのか、成年後見の7〜8割は「後見」類型となっている実情があると聞きますので、ここでは「後見」類型と民事信託を比べてみたいと思います。
なお、成年後見を青字民事信託は赤字で書いてみたいと思います。


1 そもそも、どんな制度か
成年後見は既に本人の判断能力が低下してしまっている場合に、本人を法的に支援するために、本人に代わって「法律行為」「財産管理」「身上監護」を行う法定代理人を選任する制度。
民事信託は、ある目的のために、特定の財産を特定の人物に託し、託された人物は託したときの約束事(信託契約等)に従って管理・運用・処分をする制度

2 制度を利用するのに判断能力は必要か
成年後見は判断能力が低下していないと利用できない(判断能力以外の身体の不自由等では利用不可)。
民事信託は判断能力が低下していると利用できない。ただし、信託完了後に委託者の判断能力が低下しても影響は受けない。

3 制度利用の方法
成年後見は家庭裁判所に申立てが必要(裁判所所定の診断書など必要な添付書類が法定されている)。
原則として信託の契約方法に制限はない。ただし、公正証書での契約書作成が推奨されるし、不動産等登記登録が必要な財産の場合は信託した旨の登記登録をする必要がある。

4 後見人や受託者が管理する財産の範囲
成年後見は原則として全財産
民事信託は、信託契約で表示する特定の財産(「全財産」と表示する信託はできない)。

5 誰が後見人(受託者)となるのか
成年後見人は家庭裁判所が選任する(申立人が望む候補者が選任されるとは限らない)。
民事信託では委託者が信頼する人物を受託者とすることができる。

6 監督機関
成年後見人は家庭裁判所又は後見監督人の監督を受ける。ただし、監督人がいる場合もその監督人が家庭裁判所から監督を受けている(どちらにしても定期的な報告義務もある)。
信託契約等で信託監督人や受益者代理人を置くことはできるが、任意であり、置くとしても家庭裁判所からの監督は受けない。

7 代理権の範囲
成年後見人は身上監護に基づく本人の包括的な法定代理権を持っている(本人に代わってほぼあらゆる法律行為が可能)。
民事信託は「特定の財産を託している」に過ぎないので、信託財産に対する信託契約に基づく範囲でしか権限を持たない。

8 財産管理の指針
成年後見人は「本人の生活の支援」のために選任されているので、原則として本人の生活に必要な行為以外の支出等は許されない(本人の生活に支障がない範囲での扶養義務の履行や本人の意向での支出等は可能だと思われる)。
なので、いわゆる「相続税対策のために贈与をする」などの行為は、本人の生活に必要な行為ではないのでできない。
なお、居住用不動産の処分(売却等)については、家庭裁判所の許可が無ければそもそも無効となる。

民事信託は、信託の目的や管理の方法など信託契約で決めることができるので、受益者を第三者にするなど財産管理の指針も自由に決めることができる。もちろん、信託契約に反する管理をすることはできない。

9 終了
成年後見は、本人の判断能力が回復するか死亡するまで終了しない。また、いったん申し立てると選任前でも家庭裁判所の許可が無い限り申立人の都合で取り下げることはできない。
逆に死亡すると後見は終了するので、原則として死後の事務は管理財産の相続人等への引継ぎのための作業以外はできなくなる。

信託終了の事由も信託契約で決めることができる。死亡以外の事由で終了させることもできるし、死亡で終了させることもできる。また、信託法の認める範囲で死亡後も受益権を引き継ぐ形で信託を継続させることもできる。


他にも色々あると思いますが、ざっとこんな感じでしょうか?
成年後見に関しては、未成年者でいうところの親権者に相当する人を裁判所が決めてさらにそれを監督するという感じだと思います。
民事信託は、「人」に関する制度ではなく、「特定の財産を託す」という「物」に関する制度ですので、そもそも対象が違う制度ではあります。
ですので、どちらが優れているという比べ方をするのは適当では無いと思います。
たとえば、既に判断能力が落ちてしまったけど、適切な財産管理が必要な状況であれば成年後見しか利用できませんから選択の余地は無いわけですし、家賃収入が出るような不動産だけは元気な内に民事信託したけど、その後判断能力が落ちて他の預貯金の管理や施設入所の契約をしなくてはいけなくなったとすれば、そこからさらに成年後見の利用が必要になる場面もあると思います。
要は、その時その時にどの制度が適材適所として活用できるのかという問題になるのではないかと思います。



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