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例えば、家族信託でなにができるのか RECRUIT

信託は何かの目的のために財産を託す行為ですが、これを家族間で行うことで例えば何ができるのか、いくつか例を考えてみたいと思います。

1 高齢者の資産管理
 例えば、ご自宅に一人暮らしの80代のお父さんがいるとします。
 そろそろ一人暮らしを続けるには体力的にしんどくなったので、有料老人ホームに移ろうと思い立ったけれども、老人ホームに移ってしまうと自宅が空家になって荒れ放題になってしまうし、住まない以上売却する機会があれば売却してその代金を老人ホームの支払いに充てたいと思うが、いつ売れるかわからないし、いざ買主が現れたときに自分が認知症や脳梗塞等で判断能力が落ちてしまうとその機会を逃してしまうかもしれない。
 そんな心配があるときに、もし近くに幸せに暮らしている息子さん家族でもいらっしゃれば、お父さんが委託者(兼受益者)で息子さんに受託者になって、お父さんの資産管理と福祉の確保を目的にお父さんのご自宅を息子さんに託す信託をして、息子さんが息子さんの名前で修繕や電気代・固定資産税の支払いができますし、もし売却する際に心配したとおりお父さんの判断能力が落ちていたとしても所有権のいわゆる"名義"は息子さんになりますから、息子さんの責任で家を売却することができます。
 もちろん売却したお金は信託財産であるご自宅の形が変わったものですので当然に信託財産ですから、息子さんはお父さんのために管理したり老人ホームの支払いに充てたりすることになります。

2 遺言の代用
 1のような事案で、仮にお父さんがご存命の間にご自宅が売れなかった場合に、この例の場合はお父さんの資産管理と福祉の確保が目的ですから信託は終了することが通常だと思います。
 そして、終了した場合の残った信託財産を誰のものにするのか、信託の取り決めで決めることができます。
 例えば、「お父さんが亡くなって信託が終了したときは、残った信託財産は息子さんのものにする」とか決めることができるわけですので、実質遺言と同じ機能を持たせることができます。
 「じゃあ、遺言で良いじゃないか」と考えることができますが、大体こういうことを家族間で話し合うときはお父さんの健康に不安があるときでしょうから、逆にそんなときの方が「遺言を書いてくれ」とは言いづらいものではないでしょうか?
 そこで、あくまで目的はお父さんが老人ホームにいる間の自宅の管理で、それが法律上通るように親子間で契約をするんだけど、せっかく(費用掛けて)契約するんだから、考えられるような先のことも一応書いておこうというスタンスなら、お父さんも自分の死んだ後のことじゃなく、あくまで目的は今自分の生活のための作業だと捉えることができるので、息子さんの立場でも話を持っていきやすいのではないでしょうか。

3 遺言では実現の難しい財産の承継先の指定
 
ちょっと極端な例にはなりますが、例えば下のような家族関係の比較的仲の良い親族がいたとします。
 (基本、仲が良くないと家族信託なんかできないと思った方が良いです。)

 こういう場合にお父さんが家屋敷の行く末のことで考える場合、こんな感じのことが多いのではないでしょうか。

・自分が亡き後は家屋敷はお母さんに引き続き住まわせてやりたい。
・長男が自分やお母さんの面倒をよく見てくれてるし一人っ子だから家を継がせたい。
・でも、長男には子供がいないから、その後は長男の嫁さんまではお墓を見てくれたりしてくれるだろうから良いとしても、長男の嫁さんに万が一のことがあったら、他家である嫁さんの弟さんに行っちゃうし、仮に嫁さんの弟さんが先に亡くなってたりすれば相続人がいなくて国庫帰属だ。
・ただ、甥っ子には今子供がいて長男や長男の嫁さんが亡くなる頃には一人前になっているだろうから、最終的にはこの甥っ子の子供に引き継がせたい。

 これをお父さんが遺言で解決しようと思っても、遺言では自分の次の代の財産の行き先しか指定できません。
 つまり、上の箇条書きの1つしかお父さんは遺言では決められないことになります。
 しかし、信託契約であれば、その財産の権利は”受益権”という契約で帰属を決められる権利になるので、受益者が
 お父さん→お母さん→長男→長男の嫁さん→甥っ子のお子さん(信託終了後の残余財産の帰属先)
の順番で死亡のたびに変更する内容の契約をすることも理屈の上では可能です。
 ただし、受益者が死亡で変更する信託契約は法律上30年の縛りがありますし、その間の財産を託す相手の受託者が誰になるかという問題あります(他にも遺留分の問題とか諸々ありますが)。
 それにそもそも、甥っ子さんの息子さんが一人前になったとき先祖代々の家屋敷なんていらないと言い出すかもしれませんから、さすがに4代先まで決めるのは無理があるかもしれませんが、長男さんも子供さんがいないという点でお父さんと同じ心配を共有しているかもしれませんので、まずはお母さんの生活を第一にに考えて、お父さん→お母さん→長男さんまでで終わりにして、そこから先は息子さんの判断に委ねても良いかもしれませんね。

 遺言の場合と違って信託は基本は”契約”ですから、最低でも委託者になる方と受託者になる方は協力しないとできませんし、契約当事者にならなくても将来的でも受益者になる方には了解をもらっておかないと信託が始まってから「そんな受益権なんていらない!」って言われても困りますので、信託やろうと思えば家族会議・親族会議レベルの相談はしないとできないことだと思います。面倒くさいと同時に、そこで家族親族の理解を得ることで将来まで見据えた財産管理もできるし、ひょっとしたら家族が納得するという点で遺留分対策にもなるかもしれませんね。
 

4 弾力的な事業承継
 これまた例え話になっちゃいますけど、例えばお父さんが100%株主&代表取締役(社長)の株式会社があったとしましょうか。
 お父さんがこんなことを考えたとします。
 「自分も高齢になったけど、そろそろ息子も仕事を覚えてきたことだし経営を譲りたいが、息子が社長になって、もしおかしなことになったら怖いから、自分の目の黒いうちは自分の強い権限を残しておきたい。」
 これを実現しようと思えば、税金の問題はともかくとして、株式を息子さんに譲るか譲らないか。譲るとしても何%譲るのかみたいな話になるのかなと思います。
 それでも良いと思いますが、個人企業で株式を分割するのは、税金的には良くても経営基盤が弱くなるかもしれません。
 そこで、お父さんが委託者兼受益者で息子さんが受託者となって、お父さんから息子さんに株式を信託すると、契約内容にもよりますが、息子さんに株式は渡り、管理権限ではありますけど息子さんは株主として自分を代表取締役に選任して思う存分力を発揮できると思います。
 一方でお父さんは、100%の株式を息子さんに託しているわけですから、普段は口を出さずに会社の業績が良ければ託した株式の受益者として利益の配当をもらうことができますし、信託契約の中で受益者に信託契約を解除する権限を盛り込んでいれば、息子さんの暴走や不手際で会社の経営が悪化した場合は信託契約を解除して、株式がお父さんに戻ってくれば直ちに代表取締役を変えることもできます。

 逆のパターンで、まだまだ会社の規模が小さく株価が安いので今のうちに税金対策に株式の息子に譲りたいけど自分はまだまだ働けるので会社の経営権までは渡したくないという場合に、お父さんが息子さんを受益者にして株式を信託財産にするという自己信託を宣言すれば、信託をした段階で息子さんへの贈与税の申告&納税をしてしまうことになります。以後は息子さんが株式の財産権だけ持っているけど、管理権限はお父さんに残っているので、お父さんが元気な間は100%株主兼代表取締役として頑張っていただき、お父さんに万が一があった時は残余財産の帰属が受益者になると契約に定めておけば、信託終了して息子さんは完全な株主としてバトンタッチできて、信託の段階で税金の申告は終わっているのでそこは気にしないで良くなるなんてことも考えられます。

他にも社長さんの思いの数だけ色々なパターンがあると思いますが、信託によってお父さんから息子さんへの事業承継の方法として、株を譲る以外のいくつかの選択肢が増やせるのかなと思います。


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